新製品の開発や生産性向上に向けた設備投資に活用できる制度が”ものづくり補助金”です。中小企業庁が管轄する便利で人気の補助金ですが、大きな問題も抱えています。それは、「補助金をもらったら終わり!」と認識している企業が多いことです。
実際には、補助金を返還する可能性があります。一旦は交付を受けた補助金を、数年後に返還することになると、資金繰りを圧迫し、企業の経営に大きな影を落としかねません。
そこで、今回は“ものづくり補助金の交付後に「補助金の返還」が必要となるケース”について解説します。
補助金の返還義務が発生するケース
補助金の返還義務が生じるケースには、3つのパターンがあります。
① 不正に補助金を得たことが発覚した場合
② 補助金で実施した事業で大きな利益が出た場合
③ 賃上げ未達の場合
①不正に補助金を得たことが発覚した場合
補助事業を開始して実績報告を終えて補助金の交付を受けたものの、後の会計検査院の検査で不正が発覚した場合です。このケースはそもそも補助金の交付を受けることが正しくなかったので、返還は仕方ありませんね。
②補助金で実施した事業で大きな利益が出た場合
補助事業の成果によって大きな利益が出た場合には「収益納付」という制度が適用されます。この場合、獲得した利益の一部または全部を国に返還する義務が発生します。
③賃上げ未達の場合
ものづくり補助金の申請時に宣言した「賃上げ」が実現されなかった場合に、ペナルティとして補助金の返還義務が発生します。
それでは、特に重要となる②の「収益納付」、③の「賃上げ未達」について、詳しく解説していきます。
収益納付が発生する場合
ものづくり補助金には、「事業化状況報告」の実施が義務付けられており、これを補助事業完了後から5年間に渡って行う必要があります。
事業化状況報告では、補助事業の成果によって獲得した売上とこれに要した費用をシステム上で入力します。これにより、補助事業の利益が算出される仕組みです。根拠資料として決算書もアップロードする必要があります。
売上は販売数量と単価を集計すれば算出できますが、費用については正確に算出することが困難です。実際には、補助事業に携わった人の人件費を既存事業と案分して配賦する必要が生じます。また、会社全体の売上と補助事業の売上割合によって、費用の概算を算出する方法を採用するケースもあります。
この事業化状況報告は、毎年4月1日から5月31日の間に行う必要があります。事業化状況報告を行った結果、大きな利益が計上された場合には、補助金の返還義務が発生していまいます。ただし、少額の利益では返還は不要です。計5年間の報告の結果として積みあがった利益が、補助事業の自己負担額を超えなければ収益納付は発生しません。
ものづくり補助金の補助率は1/2~2/3です。逆に言えば、企業側は1/3~1/2以上は自己負担をしていることになります。そのため、毎年の事業化状況報告で利益が生じる結果となっても、補助事業で自己負担した金額までは利益の相殺が可能です。
例えば、補助事業全体の経費が1,500万円、補助率が2/3で補助金額が1,000万円の場合、500万円は自己負担となります。この場合、5年間の事業化報告で蓄積された補助事業の利益が500万円(自己負担金額)を超えない限り、収益納付は発生しません。
一方、500万円を超えた場合には、この超過分の金額に補助事業の補助率を乗じた金額の収益納付が必要になります。例えば、5年間の利益が1,200万円だった場合、自己負担額を200万円ほど超過するため、この200万円に補助率(この場合2/3)を乗じると133万円になり、この金額が返納額として国から請求されます。
ただし、一部の事由に該当する場合は収益納付が免除されます。
収益納付が免除される場合
このように、大きな利益が計上された場合に発生する収益納付ですが、次のいずれかに該当する場合には、納付が免除されます。以下は「補助事業の手引き(18次締切)」をもとにポイントをまとめたものです。
①事業化状況等報告の該当年度の決算が赤字
②年平均成長率3%以上給与支給総額を増加させた場合
③最低賃金を地域別最低賃金+90円以上の水準にした場合
次に、「賃上げ未達」の場合の補助金返還について解説します。
賃上げ計画の未実施・未達による補助金の返還
誓約した賃上げ水準をクリアできなかった場合にも、補助金返還が発生します。これを判定するポイントは2点あります。1点目は「給与支給総額の増加目標が未達であった」、2点目は「事業場内最低賃金の増加目標が未達であった」というケースです。
①給与支給総額の増加目標が未達の場合
ものづくり補助金は電子申請する際に、3~5年間の事業計画表を入力することになります。ここでは、「給与支給総額」を記載する箇所があり、その内容は賃上げ計画の誓約書に記載した給与支給総額と整合することになります。
事業計画の最終年度である3年または5年目の報告において、給与支給総額の年率平均1.5%が未達であった場合には、「補助事業で導入した設備の残存簿価×(補助金額/実際の購入金額で算定した金額)」の返還義務が発生します。この算定に用いるのは「残存簿価」であるため、定率法によって3~5年の減価償却が進んだ後の簿価であれば、返還額は交付を受けた補助金額の1/3程度で済むことが多いでしょう。
ただし、次の場合は返還を免除されます。
①給与支給総額の年率増加率平均が「付加価値額の年率増加率平均/2」を越えている場合
②天災など事業者の責めに負わない理由がある場合
③給与支給総額を用いることが適切ではないと解される特別な事情がある場合
②事業場内最低賃金の増加目標が未達の場合
3~5年の事業計画期間内には、毎年3月の賃金を報告する義務が生じます。ここでは、補助事業実施場所の全従業員の賃金を時給換算したうえで、地域別最低賃金+30円の水準を下回る従業員がいた場合には、補助金の返還が必要となります。
この返還額は、1度の未達で補助金全額を返還するという訳でなく、3年計画のうち1年が未達なら補助金の1/3を返還、5年計画のうち1年が未達なら1/5を返還するという流れになります。つまり、計画期間内の全報告において最低賃金+30円が未達であった場合は、補助金の全額の返還が必要となるので注意が必要です。
ただし、次の場合は返還を免除されます。
①付加価値額増加率が年平均成長率1.5%に達しない場合
②天災など事業者の責めに負わない理由がある場合
まとめ
いかがでしたか?このように、ものづくり補助金はその交付を受けた後にも、補助金返還となる可能性をはらんでいます。特に収益納付・賃上げについては、うっかりミスによって補助金返還となる危険が常に隣り合わせです。
とはいえ、本業で忙しい経営者がこれらに漏れなく対応することは、相当にハードルが高いものとなります。そこでおすすめしたい施策が、「補助金制度を熟知したコンサルタントのサポートを受けること」です。伴走支援の中で、新たな補助金の情報提供なども受けられ、経営力のさらなる向上につながります。
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