10年以上にわたって長く親しまれた中小企業庁(経済産業省)の設備投資補助金の代表格である「ものづくり補助金」。さらに、コロナ禍にはじまった事業再構築補助金の後継として、2025年に創設されて2026年に第4回公募まで終了した「新事業進出補助金(当社は採択率100%)」。この2つが2026年6月に統合し、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」として新たなスタートを切りました。
この補助金には「革新的新製品・サービス枠」「新事業進出枠」「グローバル枠」という3つの枠が設けられています。「革新的新製品・サービス枠」と「グローバル枠」は従来のものづくり補助金とほぼ同じ、「新事業進出枠」は新事業進出補助金とほぼ同様の内容となっています。
今回の記事では、このうち「新事業進出枠」について詳しく説明していきます。
新事業進出枠の概要
まずは、新事業進出枠の概要について解説していきます。主なポイントは「補助金額」「補助率」「取組要件」「賃上げ要件」です。
①補助金額
補助金額は、事業者が雇用している従業員数が多いほど大きくなります。従業員数が1~20人以内の場合は2,500万円が上限ですが、従業員数が21人~50人だと4,000万円、51人~100人になると5,500万円、101人以上になると7,000万円まで拡大されます。
従業員数が1人でも補助金額が2,500万円というのは、他の補助金と比較してとても大きいですね。同補助金の革新的新製品・サービス枠ですと従業員5人以内の場合、補助上限額は750万円ですので、実に3倍以上の開きがあります。
ただし補助下限額には注意が必要です。革新的新製品・サービス枠の場合は補助金額の下限は100万円であり、設備投資規模が小さくても応募できましたが、この新事業進出枠においては、750万円と大きな金額となっています。基本的に補助率は1/2ですので、補助対象経費で1,500万円は使う必要があり、投資規模としてはある程度大きな取り組みでしか応募ができませんので注意しましょう。
なお、「賃上げ特例適用」に該当する場合には、補助上限額が500万円から2,000万円上乗せされます。上乗せの幅は、従業員数が多ければ多いほど増加額が大きくなり、従業員1~20人の場合には500万円、101人以上では2,000万円が上乗せされます。従業員数が少ないと賃上げ特例の負担増加額よりも補助金増加額の方が多いケースもありますので、しっかりと検討しましょう。

②補助率
前身である新事業進出補助金と同様に、基本的には補助率は1/2となっています。ただし、賃上げ特例の適用による補助上限額の引上げを受ける事業者の場合には補助率が2/3に拡大されます。これは通常、3.5%の賃上げを求められる賃上げ率を年平均成長率6.0%とし、地域別最低賃金+30円という自社の賃金の最低水準を+50円にするというハードな要件をクリアする場合に適用されます。
また、従業員のカウント方法も重要です。従業員数にカウントするのは「正社員だけ」と思いがちですが、実際に試用期間でなく雇用期間の定めがないパート・アルバイトなど解雇予告を必要とする者も含まれます。これによって補助上限額が1つ上の金額になることもありますので、気をつけましょう。ただし、派遣社員については注意が必要。派遣社員は派遣元との雇用契約のため、自社雇用ではないので従業員数にはカウントされません。以下は公募要領からの抜粋です。
常勤従業員は、「中小企業基本法(昭和 38 年法律第 154 号)」上の「常時使用する従業員」をいい、「労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)」第 20 条の規定に基づく「予め解雇の予告を必要とする者」となります。これには、日々雇い入れられる者、2か月以内の期間を定めて使用される者、季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者、試みの使用期間中の者は含まれません。
③取組要件
新事業進出枠に応募するためには、補助事業で設備投資を行って実施する取り組みが、「既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出」であることが必要です。(以下は公募要領からの抜粋です)
新事業進出枠は、①事業で新たに製造又は提供(以下「製造等」という。)する製品、商品もしくはサービス(以下「製品等」という。)が、事業を行う中小企業等にとって、新規性を有するもの、かつ、②事業で新たに製造等する製品等の属する市場が、事業を行う中小企業等にとって、新たな市場であるものが補助対象です。
過去に製造等していた製品等を再製造等することは、新たな製品等を製造等しているとは言えず、補助対象外です。ここでの新規性とは、補助事業に取り組む中小企業等にとっての新規性であり、世の中における新規性(日本初・世界初)ではありません。
なお、本補助金の申請予定公募回の公募開始(=公募要領公開)日以降に初めて取り組んでいる事業について、「新規性」を有するものとみなします。
※ 新たな市場とは、事業を行う中小企業等にとって、既存事業において対象となっていなかったニーズ・属性(法人/個人、業種、行動特性等)を持つ顧客層を対象とする市場を指します。


そのため、設備投資を行って取り組む内容が、「従来とは製品やサービスといったアウトプットが変わらないが生産性が向上する」「新たな製品やサービスを開発するが顧客層が変わらない」といったケースでは、要件を満たすことができず応募は不可となります。ここはかなり厳格に審査されるため、「運が良ければ採択されるかも?」という淡い期待はしないようにしましょう。
例えば、次のようなケースは補助対象外となり応募できません。(応募はできても審査では100%不採択になります)

④賃上げ・事業場内最賃水準要件
中小企業庁のなかで規模が大きめな補助金では、その多くに賃上げが義務付けられています。「補助金を出すので国の方針にも協力してね」ということでしょう。この補助金では、「賃上げ要件」「事業場内最賃水準要件」の2つの達成を目指す必要があります。
「賃上げ要件」は、「補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上増加する見込みの事業計画を策定し、これを達成すること」という要件です。
ちなみに、3~5年の事業計画とありますが、これは応募者自身が3年・4年・5年のいずれかを選択できます。とはいえ、賃上げ期間は長ければ長いほど大変ですので、「3年」にするのが基本戦略となります。
「年平均成長率」という言葉は聞き慣れない方も多いかと思いますが、いわゆる複利計算になります。3年計画の場合には基準年度の一人当たり給与支給総額×1.035×1.035×1.035の金額を3年目に達成することが必要になります。(基準年度と3年目を比較すると+10.87%の達成が必要です)
具体的な数字で示しますと、基準年度が3,500,000円だった場合には、3,880,513円にする必要がある、ということです。ちなみに、1年後・2年後時点では未達でもペナルティはありません。

「事業場内最賃水準要件」は、補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、毎年、事業場内最低賃金が補助事業実施場所都道府県における地域別最低賃金より「30円以上高い水準」であることが必要です。
たとえば、3年計画で補助事業実施場所が広島県の場合、1年後・2年後・3年後の各時点で当該事業所の従業員全員が広島県の地域別最低賃金よりも30円以上高い給与水準(時給換算額)であることが必要です。
「賃上げ要件」では3年後で達成すればOKでしたが、 「事業場内最賃水準要件」では毎年達成する必要がある点、近年の傾向を見ると各都道府県の地域別最低賃金は毎年上がっている点に注意しましょう。

ここまで、各種要件について説明してきましたが、具体的にはどのような取り組みが補助対象になるのでしょうか?これからいくつか説明していきますね。
補助対象経費
補助金はどのような取り組みでも補助対象となる訳ではなく、制度ごとに対象にできる経費内容が定められています。新事業進出枠においては、次の経費が補助対象となります。
「機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費」
このように多くの補助対象経費がありますが、主に使用するのは「機械装置・システム構築費」「建物費」「広告宣伝・販売促進費」の3つです。他の経費は使おうと思えば使えますが、この3つに比べると活躍の機会は極端に下がります。
特に注目すべきは「建物費」です。これは革新的新製品・サービス枠にはない経費です。新事業には建物が必要になることも多いので、国がそこをケアしてくれています。

補助対象となる取り組みの例
従来の「新事業進出補助金」では、他の設備投資補助金と同様に、「製造業」の採択者が多かったです。この度の「新事業進出枠」も同じような傾向が想定されます。とはいえ、幅広い業種で活用が可能な制度となっておりますので、補助対象になり得る取り組みについて、製造業以外も含めた取り組み事例を紹介します。
| 業種 | テーマ名 | 詳細内容 |
|---|---|---|
| 金属加工業 | 自動車部品から半導体装置部品製造へ | 自動車向け金属部品の加工で培った精密切削技術を活かし、新たに半導体製造装置向け高精度部品の製造に進出。高性能マシニングセンタや検査装置を導入し、半導体関連メーカーという新たな顧客市場を開拓する。 |
| プラスチック製品製造業 | 樹脂加工技術を活かした医療部品製造 | 自動車向け樹脂部品の成形で培った技術を活かし、新たに医療機器向け高精度樹脂部品の製造に進出。精密射出成形機や画像検査装置を導入し、厳格な品質基準に対応することで医療機器メーカー向け市場を開拓する。 |
| 食品製造業 | 地域食材を活用した高付加価値食品製造 | 従来の業務用食品製造で培った加工・衛生管理技術を活かし、地域食材を使用した高付加価値な冷凍食品を開発。急速冷凍機や包装設備を導入し、百貨店や高級スーパーなど新たな顧客層への販売を開始する。 |
| パン・菓子製造業 | 冷凍技術を活用した業務用菓子市場進出 | 店舗向けのパン・菓子製造で培った技術を活かし、ホテルや外食事業者向けの高品質な冷凍スイーツ製造に進出。急速冷凍機や包装設備を導入して品質を維持し、従来とは異なる業務用市場を開拓する。 |
| ソフトウェア業 | 地域商社型ECサービス運営への進出 | Webサイトやアプリの受託開発で培ったIT技術を活かし、地域産品を販売する地域商社型ECサービスを新たに運営。EC基盤や物流連携システムを構築し、地域の生産者や購入者を対象とする新市場を開拓する。 |
| 建設業 | 施工ノウハウを活かした建材製造事業 | 金属屋根工事で培った施工ノウハウを活かし、新たに金属屋根部材の製造・販売事業へ進出。専用の成形機や加工設備を導入し、従来の工事発注者とは異なる建設会社や工務店向けの建材市場を開拓する。 |
| 飲食業 | 飲食店の調理技術を活かした冷凍食品製造 | 飲食店で培った調理技術やレシピ開発力を活かし、家庭向けの高付加価値冷凍惣菜の製造・販売に進出。急速冷凍機や真空包装機を導入し、店舗来店客中心の事業からECや小売店を通じた全国市場を開拓する。 |
このように、審査員が計画内容を見た時に「明らかに新規性があり、新たな市場に進出する取り組み」だと判断できる内容での応募が必要です。特に「既存市場との切り分けが不十分」な場合、どれだけ頑張って書いた計画書でも、この1点のみで不採択になります。応募を検討する段階から、制度にフィットした計画の骨子を作っていきましょう。
まとめ
いかがでしたか?新設された「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の「新事業進出枠」は、新たなチャレンジを大きく後押ししてくれる一方、その要件は大変複雑となっており、計画の骨子で間違えると取り返しがつきません。また、採択後の手続きも数ある補助金の中でトップクラスに複雑で工数も多いため、制度を熟知した専門家の伴走サポートは必須です。
広島県福山市で本社を置く弊社では、各種補助金の申請サポート(行政書士との連携による申請代行含む)を展開し、オンラインでも全国対応しております。
この制度の前身である新事業進出補助金も採択率100%を誇っています。経験・実績ともに豊富な中小企業診断士が事業者様の応募準備から補助金の交付までを強力にサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください!
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中小企業診断士。1983年 広島県福山市生まれ。2009年から中小企業団体中央会に入職して中小企業支援の道に入り、ものづくり補助金の事務局も経験。2023年に補助金支援とや経営改善を行う”つなぐサポート合同会社”の代表に就任。補助金採択は100件・10億円・採択率80%を越える。事務局経験を活かした事業計画策定・手続きの一貫サポートが強み。趣味はランニング。

