中小企業が既存事業とは異なる新製品・新サービスを事業化し、新たな顧客層を獲得することを支援する「新事業進出補助金」。コロナ禍ではじまった事業再構築補助金の後継となる補助金です。
事業再構築補助金も同様でしたが、「どのような事業が対象になるのか?」という点が非常に分かりづらいのが特徴となっています。
そこで、今回は新事業進出補助金の「対象となる要件」を詳しく解説します。
新事業進出補助金の大前提(新事業進出指針への適合)
まずは新事業進出補助金の前提となる要件についてご説明します。それは「①製品等の新規性要件」「②市場の新規性要件」「③新事業売上要件」です。
要件 | 要件の概要 |
①製品等の新規性要件 | 新たに製造等する製品等が、事業を行う中小企業等にとって、新規性を有するものであること |
②市場の新規性要件 | 新たに製造等する製品等の属する市場が、事業を行う中小企業等にとって、新たな市場(既 存事業とは異なる顧客層)であること |
③新事業売上高要件 | 新たな製品等の売上高(又は付加価値額)が、応募申請時の総売上高の10%(又は総付加価 値額の15%)以上となること |
補助金の名称が示すとおり、「新事業」であることが大前提のため、応募する企業が「過去に製造した製品や提供したサービスではない」ことが前提になります。
例えば、現在ポンプのシャフトを製造している企業が、サイズの小さいポンプのシャフトを製造する場合は新製品とはいえず対象外です。過去にネジを製造していた企業が、もう一度ネジの製造を行う場合も同様に新事業にはなりません。
また、新しい製品・サービスを提供する顧客層が既存事業の顧客層とは異なることが必要になります。
例えば、これまで食事用のお皿を製造して食器の小売店に販売していた企業が、新たにスプーンを製造する場合、顧客層は食器の小売店で変わらないため、新事業にはなりません。ちなみに、「物理的な商圏が異なる」ということでは新市場にならないので注意が必要です。(既存:A駅前でクレープ店⇒新規:B駅前でクレープ店)
加えて、新事業は企業の中である程度の売上(または付加価値)を占める事業へ成長する必要があります。具体的には、3~5年間の計画の中で、応募申請時の企業全体の売上のうち10%(付加価値の場合15%)を占める事業に成長する計画が必要です。
新規事業の新市場性・高付加価値性への適合
大前提となる「①製品等の新規性要件」「②市場の新規性要件」「③新事業売上要件」をクリアしてもまだ安心はできません。今度は「新規事業の新市場性」「高付加価値性」とう壁が立ちはだかります。
この「新市場性」と「高付加価値性」のいずれかに該当しなければ、新事業進出補助金の申請要件を満たせません。具体的には、次のようなフローチャートで判定できます。
図に表現されていますが、「新市場性」「高付加価値性」のいずれか一方に該当すれば対象になります。逆に、どちらも該当しなければ残念ながら対象になりません。
次に、「新市場性」と「高付加価値性」について詳しくご説明します。
新規事業の新市場性
新市場性とは、社会において一定程度の新規性を有することを指します。この新規性とは、製品・商品・サービスのジャンル・分野の「一般的な普及度や認知度が低い」ということです。
①新製品等の属するジャンル・分野は適切に区分されているか?
②新製品等の属するジャンル・分野の社会における一般的な普及度や認知度が低いものであるか?それらを裏付ける客観的なデータ・統計等が示されているか?
③ジャンル・分野を区分する際には、製品等の「性能」「サイズ」「素材」「価格帯」「地域性」「業態」「顧客層」「効果」等の要素は排除したものである必要がある
これだけではイメージがしづらいと思いますが、具体的な例としては次の例が参考になります。
新規事業の内容 | ジャンルの区分 | 不適切な区分 | 不適切な理由 |
高精密小型医療機器部品の製造を行う事業 | 医療機器部品 | 高精密小型医療機器部品 | 製品の「性能」「サイズ」は排除する必要があるため「高精密」「小型」を含めて区分するべきではない。 |
半導体製造装置用の大型部品の製造を行う事業 | 半導体製造装置部品 | 半導体製造装置用の大型部品 | 製品の「サイズ」は排除する必要があるため「大型」を含めて区分するべきではない。 |
介護施設向けの栄養価の高い大豆食品の製造を行う事業 | 大豆食品 | 介護施設向けの栄養価の高い大豆食品 | 製品の「顧客層」「性能」は排除する必要があるため「介護施設向け」「栄養価の高い」を含めて区分するべきではない。 |
無人店舗でのセルフネイルサロンを経営する事業 | ネイルサロン | 無人店舗でのセルフネイルサロン | サービスの「業態」は排除する必要があるため「無人店舗」「セルフ」を含めて区分するべきではない。 |
続いて、「高付加価値性」について解説します。
高付加価値性
高付加価値性とは、「同一のジャンル・分野の中で、高水準の高付加価値化を図るものであるか?」を指します。ポイントは次の3点です。
①新製品等のジャンル・分野における一般的な付加価値や相場価格が調査・分析されているか?
②新製品等のジャンル・分野における一般的な付加価値や相場価格と比較して、自社が製造等する新製品等が、高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであるか?
③高付加価値化・高価格化の源泉となる価値・強みの分析がなされており、それが妥当なものであるか?
こちらも、具体的な事例を見ていきましょう。
新規事業の内容 | 区 分 | 高付加価値化の源泉 |
建設事業者が既存事業での木材に関する知見を活かして、オーダーメイドの無垢材木製家具の製造に取り組む事業 | 木材家具の製造 | オーダーメイドや無垢材という製品の特長に加え、既存事業の知見を活用することで、他の木材家具にはない高付加価値化を図る事業 |
畳製造事業者が、畳の複合施設(畳製品に触れ合えるカフェ・オープンファクトリーでの畳づくり体験)を開業する事業 | カフェ 又は ものづくり体験 | 既存事業の製品や技術を活かしたカフェの営業とものづくり体験を提供することで、他のカフェやものづくり体験にはない高付加価値化を図る事業 |
操作盤の内作により蒸留所を開設し、グレーン専用ウイスキーの開発販売を行う事業 | ウイスキー | 操作盤の内作により、日本では珍しいクラフトグレーンウイスキーの開発製造に取り組むことで、他のウイスキーにはない高付加価値化を図る事業 |
地域の観光資源と連携した体験型観光ホテルの経営を行う事業 | 観光ホテル | 地域の観光資源との連携や体験の提供により、他の観光ホテルと比較して高付加価値化を図る事業 |
このように、新事業進出補助金には多くの要件が設定されています。最後に、要件を再確認していきましょう。
要件の再確認
ここまでの解説をまとめましょう。新事業進出補助金に応募するためには、次の要件を満たす必要があります。(①②③は必須、④⑤はいずれかに該当すればOK)
要件の名称 | 内 容 |
①製品等の新規性要件 | 過去に製造した製品や提供したサービスではない |
②市場の新規性要件 | 顧客層が既存事業の顧客層とは異なる |
③新事業売上要件 | 新事業の売上が応募申請時の企業全体の売上10%(付加価値の場合15%)に達する |
④新規事業の新市場性 | 新事業の市場は一般的な普及度や認知度が低い |
⑤高付加価値性 | 高水準の高付加価値化・高価格化を図る取り組み |
つまり、「新しい製品・サービスを企業全体の売上の10%に達する規模で、既存事業とは異なる一般的な普及度や認知度が低い市場に向けて展開する」ことが要件になります。
ただし、対象とする市場の普及度・認知度が低くない場合には、その市場の中で「高水準の高付加価値化・高価格化を図る取り組み」であることが必須要件となります。よって、ある程度一般的となった市場において、「低価格戦略」を展開することはNGですのでご注意ください。
まとめ
いかがでしたか?新事業進出補助金の要件は複雑であり、要件の定義も抽象的な部分があります。ご自身での判断は難しい場合には、弊社のような補助金の専門家へのご相談がオススメ。まずは対象の可否をスムーズに判断し、次のステップに進んでいきましょう!
広島県福山市に本社を置く弊社では、新事業進出補助金・ものづくり補助金をはじめとした色々な補助金の申請サポート(行政書士の連携による申請代行も対応)を展開し、オンラインでの全国対応も行っています。
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中小企業診断士。1983年 広島県福山市生まれ。2009年から中小企業団体中央会に入職して中小企業支援の道に入り、ものづくり補助金の事務局も経験。2023年に補助金支援とや経営改善を行う”つなぐサポート合同会社”の代表に就任。補助金採択は100件・10億円・採択率80%を越える。事務局経験を活かした事業計画策定・手続きの一貫サポートが強み。趣味はランニング。